2015年 09月 20日
控え室と彼がいる場所 |
控え室は2階だった
そこで食事もするのだろう
長テーブルと沢山の椅子が並び
奥には和室があった。
彼の準備が終わるのをそこで待った
待っている間、お茶の準備をしているお母さんの姉妹の元へお手伝いに行った
ここでもまた「あなたは、いいわよ」
そう言われ
お母さんの傍へも行けず
お父さんは忙しそうに動いている
私は1人部屋の隅の椅子に腰掛けた
みんなお茶を飲んだり話したりしていた
私にもお茶を持ってきて頂いたが飲めなかった
私は彼が旅立ったあの日から食事は勿論、何かを飲む事さえしていなかった・・・
飲みたい食べたいとも思わない
常に喉の奥に何かが詰まっているようで何も受け付けなかった
何もほしい物なんか、求めている物なんかなかった
私が求めているのは、よし・・・だけだった
ただただ彼の準備が終わるのを待っていた
早く、よしの傍に行きたい。それだけだった
間もなくして葬儀屋さんが「準備が整いました」とやってきた
私はカバンと、あのお酒
よしが大好きなラム酒ロンサカパを持って、お父さんの元へ行った。
そしてお願いをした
「このお酒、よしが大好きなお酒なんです。よしの側に置いておいてもいいですか?」と。
お父さんは「もしかして布だかロープだかで結んだようなお酒?」と言った。
そう。ロンサカパは瓶の中央にコルクの用な生地が巻かれている。
お父さんは、ちゃんと知っていた
嬉しかった
「そうです!あのお酒です。最近ずっと飲んでなくて母が先日よしに・・・って買ってくれて、よしに今度持ってくね!飲もうね!と話したら、本当に喜んでくれてたんです。飲むの楽しみにしてたんです。だから持ってきました。よしに飲んでもらいたくて」
そう伝えた。
お父さんは
「いつも部屋にあったからね。美味しいから飲んでみろって言われて飲んだ事もあったけど、強いよね。・・・おいてあげて。ありがとう」そう言ってくれた。
でも、勝手に置くのもどうかと思い葬儀屋さんに聞いてみた
「彼が大好きだったお酒なんです。飲むの楽しみにしていたお酒なんです。だから、彼の近くに置いてもらえませんか?」と。
葬儀屋さんは
「もちろん!置いてあげましょう!お預かりしますね」
と笑顔で言って下さった。
その後、私達は揃って彼の待つ場所へ行った
2階の控え室からは離れた1階だった
「遠いな」そう思った
そして、彼の待つ場所、部屋に着いた
真っ正面に大きな遺影があった
あの・・・大事な写真
たった一度だけ撮らせてくれた
私にだけ向けてくれた眼差し
照れていたんだろう
困ったような怒ったような表情
なのに、その眼差しは優しい
きっと今もそこで同じような表情をしているんだろうな
「こんな事しなくていいって言ったじゃん!」
そんな風に言いながら写真と同じ困ったような怒ったような表情をしているんだろうな・・・
そう思った。
そんな遺影を見ていたら涙がまた溢れた
そして
これは本当に本当に現実なんだな・・・
そう思ったら大声をあげそうな衝動にかられた
遺影の前に彼は横になっていた
彼の首元にはタオルなのか白い布のような物が巻かれていた
あの、赤紫色の跡が見えないように配慮したのだろう
首は隠されていた
でも、私にはそれが余計に違和感に感じた
大好きな物や、いつも身につけていた物に囲まれて眠っている
そんな彼に「来たからね」と呟いた
by yoshi721chii
| 2015-09-20 12:56
| 後悔の日